中学2年の頃に音楽の成績で10段階評価で最低の1を取った事がある。
先生にとっても1を付けるには書類作成なのか上司の承認なのか何か面倒な手続きが必要ならしく、本来なら付けたくないものらしい。
先生は「どうしても付けざるを得ず1を付けた、ショックだった」と話していた。
人一倍プリンスの音楽を聴いている私が、実は「音程」と言うものを数年前まで全く理解していなかった。
そう言えば、メロディと言う観点を持っていなかった。
「あの曲のメロディは素晴らしい」と言われても、私にはどのメロディが素晴らしくてどのメロディがそうではないかとか美しいとか斬新だとか、まるで判断が付かない。
たくさんの曲を聴いても、今でもメロディの優劣を付けれるようにはなっていない。
私にとってメロディはリズム部分と音色部分を聴いて補っているようだ。
生まれながら音程に関する盲だったのか?と言われるとそうではない。
例えばメロディが「使い回し」された時は、「これはあれと同じメロディだ!」と認識する事が出来た。
なので音程は聴こえてはいるのだけど、それを分析的に認識するよう注意を払った事が無く、身に付かなかったようだ。
もちろんメロディを再現しようと思ったこともない。
ちなみに私の話す調子は抑揚が少なく単調で「本気か冗談か分からない」と良く言われる一方、別の見方で「頭が良さそう」とも聞こえるらしい。
音程に気が付いたのはここ1~2年でカラオケでの事だった。
妻と2人でカラオケに行き、好きな曲を入れ、採点機能をONにし、思う存分歌った時に結果表示で気になる表示があった。
「あなたの音域は~」の個所が2音しか塗りつぶされていない。
曲としては20から30音ほどあると言うのに、私の出している音は2音しかないようだった。
ならばと、またそこを意識して頑張ってみるが、努力に反してやはり2音しか出ない。
「この表示はなんなのだろう??」
妻の時は20~30ある曲の音域に対して、1か2個足りないと表示される。
はて?これは何の違いだ?私は非常に疑問に感じた。
音程と言うものに関して物理的な知識はあったし、それを認識出来ているつもりもあった。
義務教育の頃は色々たくさん苦手があったが中でも音楽と体育の授業はその最たるものだった。
体育はまたの機会にするとして、音楽の授業については何をしているのか全く分からないと言うのが私の印象だった。
記号を見せられその意味を覚えろと言われる。
譜面を見せられ「歌え」と言われる。
楽器を持たされ「音を出せ」と言われる。
「大勢で揃えてそれを行え」と言われる。
低学年の頃はもっと初歩的な内容もあったような気もするのだけど、理解出来ない私はそれをどうやってこなしていたか覚えていない。
私には何がキーポイントなのか分からず、何も掴まずに時間を過ごし中学2年にまでなっていた。
ある時「一人でアルトリコーダーで課題曲を吹く試験」があった。
「私に出来ることは何もない」と直感したが、順番が回ってくればそれをやらされた。
出だしも出ないどころか、何も出来なかった。
私にとって曲を覚える事は運指を覚える事に直結していたが、曲として聞こえるスピードは出ないし正確さも無い、機械的暗記になるので量もこなせない。
メロディを理解しない私にとって、ドレミは無機質な羅列だ。
運指も全くこなれていない。
例えば、ドの指からソの指にするにはどの指を動かし、どの指をそのままにしておけば良いのか身に付いていない。
今になって思えばそれは捉え方で「目的の指の形」をイメージする事で出来ると思うのだけど、当時は演奏のために指を動かす事がまるで出来ていなかった。
先生は時間も押しているためか「ここを吹け」「ここを吹け」と言うも、私には何もまるで出来ない。
最終的にピアノの鍵盤を叩き「この音を出せ」と言った時、私は「おそらくこれだろう」と当てずっぽうに音を出した。
先生はそれで何かに気が付いたのか「もういい」となり、ようやく解放された。
その時の教室は「愕然」が立ち込めているような感じだった。
私はそんな空気も全く読む気が無く、「やれやれ、キツカッタなぁ、どうでもいいけど」と言った感じだった。
私は中学生時代、不良でもアホでもなく、むしろ真面目な生徒だった。
ただ音楽の授業は全く何が行われているのか、分かっていなかった。
手掛かりが無く、何も理解出来ていない状態だった。
それでも中学2年にもなれると言うのが義務教育なのだろう。
8年間の音楽の授業は私にとって虚無だったのである。
この時の通知簿に1が付いた。
1はよほど特別な場合で無いと付かないものだとも聞いた。
私は特別な存在らしかった。
話は変わるがプレイステーションと言うゲーム機に「クレイマン・クレイマン」と言うとても面白いゲームがあった。
ジャンルとしては奇想天外なアドベンチャーゲームで、画面の中のいろいろ仕掛けやアイテムを使って問題を解決していくゲームで、非常に発想豊かな作りのゲームだった。
絵的にも凝った作りで私は楽しんでゲームを進めていたが、「5つの音を聞いて、それを再現せよ」と言う場面にぶち当たり、完全に行き詰った。
これが全く出来なかったのだ。
ボタンを押すと「プーポープーホーボー」みたいな見本の音が鳴る。
画面に映し出された楽器のようなものの5つあるシリンダー内の水量を調節し、鳴らした時に見本の音と同じにすると言う内容だった。
私には最初これが何を意味しているのかも分からなかった。
もしかしてと思い延々いじくり回した結果「全く不可能」にしか感じなかった。
2つの音の組み合わせを比べ、同じか違っているのかが全く分からなかったのだ。
2音が連続した時、前の音と次の音が同じか違うかは分かるが、5つもの音が連なる見本とシリンダーの音の組み合わせを私には比べる事が出来なかった。
音の高低も分からず、2音を並べて鳴らして違っていたとしても、それが前の音より高くなったのか低くなったのかが分からなかった。
蛇足だが、バッティングセンターで空振りをした時、ボールがバットの上を通ったのか下を通ったのかも分からなかった。
閑話休題。ネットで検索しヒントを探してみると「楽勝」的な記述ばかり見付かる。
やっとのことで見つけたアドバイスには「声を出して当ててみる」とあったので、やってみたがこれも自分には何をしていいのかさっぱり分からなかった。
「もう仕方が無い、ゲームも進まないし」と降参しネットで解答を探すとドレミで書かれた答えが見つかった。
私にはドレミで書かれてもそれを再現する事は出来なかった。
「いっそシリンダーの水の量で教えてくれ!」探すとそんなページも見つかり、先には進めた。
このゲームは私に「音程」と言うものの存在を教えてくれていた。
義務教育は私に「音程」を気付かせる事は出来なかったと言うのに。
ちなみに「クレイマン・クレイマン」はゲーム的に奇天烈過ぎて、クソゲーに分類される。
私はこのエピソードから「クレイマン・クレイマン」を忘れる事は生涯無いように思っている。
すごく長くなってきているので、今日はここまで。