非万人向け映画「ゼロ・グラビティ」

元旦の映画の日を利用して、話題の映画「ゼロ・グラビティ」を観た。
IMAXでは無い3Dの劇場で、字幕で日中に夫婦で観た。
この映画は人生で累計1万時間以上、無重力宇宙空間について考えたことのある人にだけはオススメなんだと思う。
私には「武士の献立」のが好きだったし、「かぐや姫の物語」も良かった。
「ゼロ・グラビティ」についてここから書くけど、極力ネタバレは無いつもりだ。
宇宙空間を遊泳する映像や3D的な表現は目を見張る物があるのだろうけど、それも10分ぐらいで満腹になってくる。
そして無重力空間での活動について考えた事が無いと
「えっ?こう言う時、無重力だとこうなるの?なんで?」と言った現象がいくつもいくつも出てくる。
その現象についてこの映画では全く説明が皆無。
水が丸くなってプカプカ浮かんでいるのは序の口として、火もプカプカと浮かんでいる。
火がプカプカと浮かんでいるなら、それは私は走り出すと思うんだけど、キレイに丸ければ大丈夫なのか?
体を固定せずに消火器を使うと人が後ろに吹っ飛ぶ、そんなに出力の大きい消火器なのか?と。
宇宙空間で体がグルグル回り出すと、空気抵抗が無いので永遠に止まらないのが出て来たのは私は初めて観たので、これは非常に良かったと思ったが、それは私がこれを理解出来たからだと思う。
そうでないと「この現象は何?なんでこんな事になってるの?」だろう。
そう言った事からこの映画には前半30分ぐらいを観客のために説明とチュートリアルの時間として割いても良かったのでは?と思う。
トレーニングシーンとして、女性主人公と一緒に観客が宇宙空間について学ぶようになっていれば、もっとのめり込める映画になったんではないか?と。
でないと、ただ単に話題映画を観ようとやってきた観客は置いてきぼりになり「よくわからんけど、そーなのかー」と、そしてラストも無重力あってのラストなので、「ラストのあれはなんで?」となると思う。
特にSF好きでない、宇宙空間についてあまり考えた事の無い人にとってはこの映画は非常に厳しいと思われる。
そう言えば冒頭にちょっとだけ説明があったけど「音を伝えるものは無い」とかで、「そこかよ。足りないよ。」と言わざるを得ない。
この映画を楽しんで観るためには、必要となる前提知識が多過ぎるほど多い。
過去の宇宙空間を描いた作品を知る必要があるし、宇宙遊泳にも、3D表現の過去の作品を観る必要があるし、大気圏突入についても、、、他にもまだまだある。
しかも逆に太陽からの殺人的宇宙線については知らない必要もある!?
「ゼロ・グラビティ」を観る体験は良いとは思う。
わずか90分で驚くほど疲れるので、そこだけを感じても「これまでこんな映画は無かった」と説得力を持って言える事になる。
休み明けの職場や学校で「ゼロ・グラビティ、なんか分からんかったけど、超疲れた、酔った、スゲー映画だった」と盛り上がれる。
前提知識を十分に持った人でないなら、そういったところに2000円弱を払える人は観たらそれだけ得るものがあるんじゃないかと思う。
それ以外の人は?観るだけ観て、誰にも話さず?
もし聞かれ時、伝達能力ある人ならこんな感じかな?
「観たけど、よくわからんかった。
映画観て酔ったのは初めて。
最後まで生き残る人はいたよ。
映画の日に観たけど高かった。
安くて、もっと短くても良かった。」


お正月映画としても私は「ゼロ・グラビティ」よりも「武士の献立」をオススメする。
「ゼロ・グラビティ」を昔で言うところの雪山映画とすれば「劒岳 点の記」をレンタルで観るのがオススメ。
いやでも「劒岳 点の記」も劇場で観る映画かなぁ、これはCGゼロだからね。
私は3D映画ってそんなにも観てないけど、「ゼロ・グラビティ」も3Dで価値あるなぁーって思った、最初の数分。
でも「シルク・ドゥ・ソレイユ 3D 彼方からの物語」の方が「これは3Dで観ないとダメだ!」と思ったかな。
「ゼロ・グラビティ」はお正月などの他の全く何もする事が無いタイミングに十分に予習してから、映画を観に行って過ごすのは否定しない、ぐらいのレベルと私は思う。
極論で返せば私はPrinceファンでPrinceの事なら楽勝で累計1万時間考えているので映画「プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ」の方が楽しめると思う。
で、Princeのライブと無重力であれば、私は前者の方が体験したいと思っているし。
しかし、「Princeって何?バンド?だれ?どんな映画?いつの?」と言った人に「この映画は映画史に残る映画だし、映画館で大音響で観た方が良い」とは言わない。
「ゼロ・グラビティ」に限らずこれまでの映画でも、映像における男のロマンとして「無重力」「大気圏突入」「爆縮」「超ミクロ視点」「超スピードorスロー」「超視点移動」「ヒーロー側戦艦爆発」なんかがあった。
これらは、どうしてもその現象を実際に起こして撮る事の出来ない映像だ。
なので、アニメや特撮を用いてそれが行われてきた。
そしてそれを知っている人だけが「おー、あれを描いたか。ウハウハ」と楽しんで観ていた。
今、現代はそれがCGになった。
するともうその感覚は無くなった。
ロマンネタ選びだけが面白さになった。
「ゼロ・グラビティ」で宇宙船内で髪の毛が重力を受けずフサァってするシーンがあったとしても「どーせCGでしょ」で終了だ。
「パイレーツオブカリビアン」や「ロードなんとかリング」他で異形のキャラクターが戦っていても「CGでしょ」と。
で「あーアレね」みたいになってしまった。
「じゃぁ、それによって何を言わんとしているの?」
「ゼロ・グラビティ」にはそれが無い。
むしろ「技術はここまで来ましたよ」とそこだけ。
それを感じ取れる人は「そうかここまで来たか」だけど、そうでない人は「このシーン何?」だ。
そして、残念ながら「ゼロ・グラビティ」のほとんどはそれだったように感じた。
私が感じ取れないだけだったら申し訳ないけど、「このシーンが撮れたよ」って言いたかったのね、と思うシーンが少なくなさ過ぎた。
3Dの効果や技術もすごいのかも知れないけど、私にはCG映画としてしか観れないので「逆襲のシャア」のスペースコロニーと同じ種類の感動でしかない。
一応、ストーリー面についても触れておこうと思う。
私が思うこの映画で観るべき箇所にもなるのだけど「主人公の女性技術者が出来る子では無い点」が一番面白い。
次に「宇宙空間の黒色、静寂」もいい。
その次は急にランクが落ちて「ジブリチックな巨大建造物にしがみつく表現」かな?
メカとかコスチュームや通信プロコトルなどなどは、無重力宇宙空間について考えた累積が1万時間に達してないので、私はあんまり分からない。
私は主人公の女性技術者のキャラクターはすごく良かった。
なんでも出来るタイプでも無く、すぐにパニックになり、「助けてー」とも明確に言わない。
トリックスター的にでないと言うか、非常にスムーズな展開でラストも”猛烈に作為的な箇所が1か所ある”以外はとてもいいと思った。
ただ、「ゼログラビティ」のストーリーはある人物が言ってた「感動の物語は作れる人には比較的簡単に作れる」をそのままやってる感じで「ああこれのことか」と。
昔同じオチの「プレタポルテ」って映画もあった、他にもいっぱいあると思う、一番無難な感動だし。
先に書いた条件に当てはまらない人には、無重力も雪山も水中も腐海も同じなのでそうなってしまえば90分でも長い。
腐海のが観る人を選ばない点、誰もそんな空間について考えた事が無いので、映画として面白い投げ掛けだと思う。
最後にザックリ、私の中での「ゼロ・グラビティ」の位置付け。
「海底超特急マリンエクスプレス」>「007 スカイフォール」≧「マン・オブ・スティール」 >「ゼログラビティ」>「グーグーだっ●猫で●る」>「タ●タ●ック」
このぐらいワーストに近い位置にある映画だった。
私にはお正月で無ければ耐えられなかったと思う。
「まだいまだに悪役はそこかよ」ってのもあったなぁ、そう言えば。
「ゼロ・グラビティ」は特定の人にとってだけオススメ!

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